常に勉強、人生の鑑
- 2021/1/23
- 日高春秋
「文句言うだけだったら誰でもできる。議員なら、あかんて言うだけじゃなくて、こうした方がいいんじゃないかとか、代替案をしっかり示さなあかん」。23年ほど前、筆者が駆け出しのころ、初めて担当した美浜町で当時町会議員を務めていた児玉五郎さんが言われていた言葉である。議会の仕組みなど勉強不足で無知だった筆者が、いろんなことを教えていただいた、社会人になってからの恩師の一人である。児玉さんが97歳で亡くなった。訃報に触れ、冒頭の言葉がまず頭に浮かんだ。
美山村出身。高知県で木材関係の仕事に長らく携わり、57歳で定年退職した次の日から美浜町吉原に住み、町会議員を2期務めた。愛していた松林を切ることに反対したり、煙樹ケ浜の砂浜が後退していることを危惧するなど、さまざまな問題について当時の成瀬峯次町長と一般質問でやり合っていた姿が目に浮かぶ。筆者は議員としては最後の2年間だけを見させてもらったが、最も印象に残っている方である。信念を持って、おかしいと思うことははっきりと声に出せる、数少ない方だったことは間違いない。
ご遺族の方の話では、亡くなる直前まで病院の看護師さんに冗談を言っていたというから、五郎さんらしい。生前、吉原に来てから、大好きな鮎釣りをして、政治にも携わり、人生でやりたかったことを全部できたと言っていたという。忖度という言葉とは無縁、常に勉強する姿は人生の鑑(かがみ)。今年になって詠んだ辞世の句があると、元同僚議員の方に教えてもらった。「旅立てど 三途の川に鮎棲めば 釣り竿取りに帰りくるかも」。まちの発展をこれからも高いところから見ているだろう。襟を正さなければしかられそうだ。ご冥福を祈ります。 (片)