
13年前から難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)との闘病生活を送る御坊市の花の木ゆう太さん(71)が、3年ぶりに2作目の小説「御馳走ちゃう、事件」を文芸社から出版した。前作「相棒は笑わない」は闘病生活を基に想像を広げユーモラスな文体でつづったフィクションだったが、今回は原稿用紙約700枚分の長編ミステリー小説。「本好きな人に楽しんで読んでいただきたいと思います」と話している。
花の木さんは大阪や東京で不動産管理の仕事に就き、帰郷して福祉支援員など務めていたが、2007年に足の不調を自覚。12年にALSの診断を受けた。筋肉が衰える進行性の病気で「今のうちにできることを」と、若い頃から書くことが好きだったので各種の文芸コンクールへの挑戦を始めた。
3年前、初の小説「相棒は笑わない」を3カ月で執筆し、文芸社から出版。インターネットでも販売した。現在までに足以外の症状はあまり出ておらず、同居の99歳の父親も健康で、2人で家事を分担しているという。
今回は、「御馳走ちゃう、事件」というユニークなタイトルで、御坊市ならぬ「六坊市」などが舞台。3つの物語が同時進行するという凝ったつくりになっている。前作「相棒は笑わない」の主人公が、同居する父親が被害者となった殺人事件の容疑者となり、逃亡劇を繰り広げる。昔から小説が好きな花の木さんは、「村上春樹の構成力、志賀直哉の描写力、筒井康隆のユーモアセンスを一つに合わせたような小説」に仕上がったという。金髪の女刑事も登場し、フィクションならではの展開とどんでん返しが楽しめる内容。タイトルは旧仮名遣いだと「御馳走ちょう」と読め、内田百閒の「御馳走帖」のパロディともなっている。
「3つの世界が、最後に一つに収束していきます。読書好きな方、ミステリー好きな方に楽しんでいただきたいと、わくわくしながら書きました。ずっと書いていると登場人物が自然に動き始めて物語に命が宿ってきたのを感じられ、書く楽しみを存分に味わうことができました」と執筆時を振り返り、「私はこれを、自分を肯定するために書きました。嫌な事件ばかり起こる閉塞的な世の中ですが、病気を抱えたこんなおっさんでも力いっぱい生きていると知っていただき、元気を出していただければと思います」と話している。
文庫版、413㌻。全国の書店から注文でき、前作「相棒は笑わない」とともに、インターネットでも販売している。
写真=「書く楽しみを存分に味わいました」 2作目の著書「御馳走ちゃう、事件」を手に花の木さん