灯台からの響き 宮本輝著

 人には好き嫌いというものがあって、猫が好きな人もいれば嫌いな人もいて、電車は乗るのも撮るのも大好きな人もいれば、そんなもんどうでもええわという人もいます。本作はタイトルにもあるように、海辺の灯台が好きな初老のラーメン屋の親父が主人公。1年にわたり全国の地方紙に連載した新聞小説です。

 物語 東京、板橋の商店街で創業者の父の後を継ぎ、妻と二人三脚で中華そば屋ののれんを守ってきた62歳の牧野康平。どんなときも弱音を吐くことなく、黙って自分を支え続けてくれた妻の蘭子が突然、病気で亡くなり、康平は生きる気力を失い、店を閉めてしまったが、妻が生前、仕掛けた謎がきっかけで全国の灯台を巡る旅を始める。あるときは1人で、あるときは息子と2人で、またあるときは親友の愛人だった女性の息子と灯台を巡りながら、自分の来し方を振り返り、家族や友人との関係を見つめ直し、店を再開して生きる力を取り戻していく…。

 最愛の人との別れは本当につらく悲しい出来事ですが、その絶望のなかでも時間とともに、薄紙をはぐように心の傷は少しずつ癒えていきます。康平は妻に先立たれ、深い海の底に落ちますがある日、妻が残した謎に気づき、それを解くための旅をするうち、いつしか死んだ妻の声を聞くようになり、会話をしながら、見えない糸に導かれるように出雲へたどり着きます。

 主人公は映画「シックスセンス」のブルース・ウィリスのよう。劣等感の塊だった自分を支え、いつも静かに水先を照らしてくれた妻は、亡くなったあとも遊び心を持って、行く末を照らしてくれる。成長した子どもたち、常に気にかけてくれる親友も含め、一見、これほど地味な人はいないようで、その実、これほど幸せな人はいないでしょう。 (静)

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