文・堺雅人 堺雅人著

 主演ドラマ「半沢直樹」の新シリーズが大ブレイク中の俳優、堺雅人。テレビ雑誌で連載したエッセイ集をご紹介します。

 内容 「喪服の似合うエレクトラ」という舞台の役作りのために、ヒゲを伸ばしている。この状態は充実感というか安心感というか、ちょっとウキウキする。台本を眺めて役についてアレコレ思いをめぐらせる作業は、たのしいけれど心もとない。いろいろ考えて結局まったくちがう人物だった、と言う時も多い。その点、ヒゲは安心だ。演出家がヒゲを生やせといっている以上、そこに間違いはない。「ただしいココロ」を考えることに比べれば、「ただしいカタチ」に向かう作業は手っ取り早く、無駄がない。ココロは呼吸に表れる、と何かで読んだ。禅僧はひたすら座って呼吸を整える。我々役者はとりあえずヒゲでも伸ばす、というわけだ。(「髭」)

 将軍役をやることになり、「品」についてずっと考えている。こんな大層なテーマ、簡単に答えが出せるわけがないが、たとえば「品」という言葉は、花瓶に生けられた一輪の花を思わせる。その本来の姿、野に咲く様子やまわりの自然をイメージしようとする。品が花ならば、まわりの自然はふるびた屋敷や代々続く家業かもしれない。あるいは父母や祖父母の居住まい、さらに昔の人々の面影かもしれない。僕にできるのは、手に入るだけの「品」をかきあつめ、ヨロイのように身にまとうことぐらいだ。運がよければそうした「品」は僕の皮膚になるかもしれないし、さらに運がよければ、つぎの世代に受け継がれることになるだろう。自分の品は自分で語ることができない。(「家」)

 書かれた時期は2005年から2009年までと結構古く、著者はまだ俳優としての代表作「半沢直樹」に出会ってはいません。

 私が著者の演技を初めて見たのは、三谷幸喜脚本のNHK大河ドラマ「新選組!」の山南敬助役。穏やかでクールなのに一本筋の通った熱さをも感じさせる、非常に印象的な役でした。「篤姫」の将軍家定も、原作とは違って、実は聡明で篤姫との間に真の信頼関係を築くという設定が板についていました。

 そして「半沢直樹」。理想を貫く、正義のバンカー。毎回、滑舌よく高らかに熱く正論を叫びますが、不思議に暑苦しくなく、涼やかといっていいたたずまい。この人自身の持つ「品」が、役に爽やかな息吹を与えているのでしょう。

 その個性のエッセンスが、この十数年前のエッセイ集には詰まっています。一編一編にきちんと起承転結があり「読ませる」文になっているところ、さすが知性派俳優。

 このあと女性誌でも連載し、「文・堺雅人2」として書籍化。ぜひ読みたいです。

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