神隠しのような現実

 世界中がコロナという霧に包まれ、日本は夕闇が迫るように、少しずつ明るさが失われつつある。テレビのニュースで人がいない渋谷や心斎橋を見て、驚きとともにどこかで見たような既視感を覚えた。

 1872年、ポルトガルの沖で漂流している船が発見された。見つけた船の船員が乗り込んでみると、積荷に異常はなく、士官室のテーブルにはいま作られたばかりの温かい食事とコーヒー。しかし、船長と家族ら10人の姿が消えていた。

 これはその船の名前から「メアリー・セレスト号事件」と呼ばれる有名な海のミステリーで、乗組員はなぜ、どこへ消えたのか、150年近く過ぎたいまも真相は解明されておらず、航海史上最大の謎とされている。

 この怪事件をモチーフとした小松左京の短編「霧が晴れた時」は、大型連休にハイキングに出かけた家族が主人公。人混みを避ける狙いは当たり、青空の下で自然を満喫するのだが、途中で天気が急変し、立ち寄った峠の茶屋で不思議な光景に出くわす。

 調理場では鍋のおでんがグツグツと煮え、別の部屋では囲炉裏端に漬物と湯気が立つ湯飲みが置かれているが、おかみや家の主はおらず、つい数分前に忽然と姿を消したかのよう。やがて妻と娘も行方不明となり…。

 現実のいま、渋谷のスクランブル交差点や心斎橋の戎橋周辺は人が激減。つい3カ月前まで、休日はごった返すほどの人でにぎわっていたし、日本人にはそれが当たり前の風景だったが、街に人の姿が見えず、人気の飲食店もなべて閉店、または開店休業である。

 コロナの霧が晴れるまでまだ時間がかかる。小説の神隠しのように、街から人が消える大型連休、時間のある方は読書でも。(静)

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