愛すべき偉人・奇人たち

 先日の市民教養講座で、作家の荒俣宏氏が「偉人・奇人」の生き方について語った。真っ先に挙げられた偉人は、御坊市ゆかりの作家大佛(おさらぎ)次郎。時代劇「鞍馬天狗」の原作者だ。団塊の世代である荒俣氏の子ども時代、チャンバラごっこでダントツの人気だったという◆講演では、周りと衝突しながら自分の書きたいものだけを書いた姿勢が紹介された。それに関する逸話が、たまたま講演前夜に読んだ「星の文人 野尻抱影伝」にあった。抱影は冥王星の名付け親として知られる天文学者で大佛次郎の実兄。大佛原作の歌舞伎演目で、当時の人気役者十一代市川団十郎(現在の市川海老蔵の祖父)と対立した。大佛の台詞は文学的だが発音しにくく、団十郎が苦言を呈し大喧嘩になったという。その騒動を当時の評論家がこう述べている。「双方限りなく立派だった。それはともに人間としての信念の誠実さと誠実さがぶつかったればこその大ゲンカだったからだ」◆大事なのは自分のやりたいことに没頭する「三昧(ざんまい)の境地」と荒俣氏は観客にもその姿勢を勧めたが、語るご本人もその通りにマイペース。楽しそうにいろんな奇人の逸話を披露し、一番面白い水木しげるとの交友に差し掛かったところで終了時刻に。「えっもう終わり? もうちょっと、もうちょっと」と言いながら、一緒に南方を旅した思い出を駆け足で披露した。「もっと早くその話をしてくれれば」と思った人も多かったかもしれないが、めいっぱい面白い話が聞けたという満足感はあった◆既成の価値観などものともせず、心のままに突き進む偉人・奇人たち。ちまちまと細かいことに気遣わざるを得ない現代社会で、そのような愛すべき偉人・奇人たちが伸び損なうことのないように願いたい。(里)

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