千の結び目に込もる強い思い

 本紙が毎年8月に行っている、戦争体験者らに話を聴く連載記事「終わらざる夏」の取材を今年初めて担当した。30年以上前に手作りで発行された戦争体験記録集、出征兵士の無事を祈る「千人針」、250人分の名が寄せ書きされた日の丸と、当時を語る「物」を見せていただき、胸に迫るものがあった◆インターネット上の辞典によると、千人針は第二次世界大戦まで行われた、出征兵士のお守り。一枚の布に千人の女性が一人一針ずつ、赤い糸で千個の結び目をつくる。千人と一口にいっても、その人数分が集まるまで頼んで回るのは大変なことだったろう。終戦時にはまだ12歳、女学校1年生だった昭和8年(1933年)生まれの母も、頼まれて赤い糸で結び目をつくった覚えがあるという。五銭硬貨や十銭硬貨を縫い込むことも行われた。「死線(=四銭)」を超え、「苦戦(=九銭)」を超えるという意味を持たせるためだ。「千人力」というものもあり、白い布に千人の男性が一人1字ずつ、赤い文字で「力」と書く。当時は千人力専用の「力」のゴム印も販売されていたという◆取材にうかがった日高町の出征男性(故人)宅では、千人針も千人力も大事に保管されていた。実際に目の当たりにすると、きっちり整然と並んだ結び目の千個という数に圧倒される。一人の人の無事を祈る心の強さが、そこには形となって残されている。強力なお守りの力ゆえか、その男性はけがもなく帰郷。地域で活躍し、89歳で他界された◆人の手が関わっている限り、「物」にも物語が内包されている。終戦から経過した74年という時間を超え、できうる限りの心の力を発揮してそれを感じ取りたいと思う。受け止めて、自分の言葉で語り継げるようになりたいと思う。(里)

関連記事

フォトニュース

  1. クエの恵みに感謝

戦争体験者に聞く 終わらざる夏

  1. 出撃直前、さくら弾機が炎上 極秘扱いで「知られざる特攻機」とも呼ばれたさくら弾機は、直径1・6㍍、…
  2. 飛行機乗りが夢だった 1944年(昭和19)6月、日本はマリアナ沖海戦に敗れてサイパンが陥落し、絶…
  3. 激戦のフィリピンで6年 日米開戦直後の1941年(昭和16)12月22日、日本は米軍の支配下にあっ…
  4. 空襲に怯え、悲痛な思い 大戦末期、空襲に怯え、悲痛な思いをした御坊市島の竹田(旧姓=山﨑)玉枝さん…
  5. 根室空襲、艦載機が猛爆 大東亜戦争末期、制海権を失った日本は北海道まで米軍に押し込まれ、1945年…

日高地方などのイベント情報

現在予定されているイベントはありません。

Twitter

書籍レビュー

  1.  元アニメーターで江戸川乱歩賞作家、真保裕一の「行こう!」シリーズ最新作。今年5月に文庫化されました…
  2.  今回紹介するのは2005年に発行された推理小説家石持浅海の「君の望む死に方」。前作の「扉は閉ざされ…
  3.  映画「ソワレ」が御坊でも好評上映中ですが、タイトルは「夜会」を意味する言葉。そんなタイトルの司馬遼…
  4.  主演ドラマ「半沢直樹」の新シリーズが大ブレイク中の俳優、堺雅人。テレビ雑誌で連載したエッセイ集をご…
  5.  霊感はさほど強くないはずだが、なぜか奇妙な出来事に遭遇してしまう。本作はノンフィクション作家の著者…
ページ上部へ戻る