ゲバラ覚醒 海堂尊著 文春文庫

「チームバチスタの栄光」等の医療小説で知られる、現役医師で作家の海堂尊が新たな境地を開いたシリーズ「ポーラースター」の第1作をご紹介します。主人公はキューバ革命の立役者、死後半世紀余を経て今なお伝説的なヒーローとして人気の高い、エルネスト・チェ・ゲバラ。

物語 第2次世界大戦後間もない、1950年代初頭の政情不安定なアルゼンチン。体の弱い少年だったエルネストは、ブエノスアイレス大学で医学生となった。「貧しい人々を医術で助ける」という目標と「吟遊詩人になる」という夢を抱くロマンチスト。

長期にわたるペロン政権が樹立され「くたばれ、ファシスト・ペロン」と学生達は暴動を起こす。彼らは検挙され投獄。騒乱の中で学生議長ピョートルの恋人マチルダが亡くなった。獄中の彼にそれを伝えたエルネストは、エビータの愛称で国民に愛される大統領夫人エバ・ペロンを通じて大統領に掛け合い、彼を釈放するよう頼む。彼女はエルネストの初恋相手だったのだ。「二度とペロンに楯突かない」ことを条件に釈放が許されたピョートルは、エルネストの説得に「こんな国どうでもいい。この腐った国を脱出して黄金郷(エルドラド)を目指す」と南米統一を誓う。エルネストはこの英雄と共に行き、彼のことをうたう吟遊詩人になろうと決める。

卒業資格を得た2人は大型バイクで南米大陸縦断の旅に出る。チリ、エクアドル、コロンビア、ペルーと国境を越えて走り続け、過酷な労働に従事するインディオ、ハンセン病に苦しむ人々、彼らを救おうとする医師、政治家ら幾多の人々と出会っては鍛えられ、育てられてゆく。だが帰郷への道から外れボリビアを訪れた時、2人を悲劇が襲う…。

若い頃は「非武装革命」を理想に掲げたゲバラ。親友と2人、荒々しい自然と不穏な政情の南米大陸を北上する旅の描写は、青春小説の醍醐味を味わわせてくれます。

映画「エビータ」で知られるエバ・ペロンも登場。ゲバラとそんな逸話があったのかと感心していたら、巻末に「実際に2人が会った記録はない」と。さすが小説家! つまりゲバラ伝というよりは、あくまでも海堂尊氏のゲバラ。詩人の魂を持った青年として描かれ、言葉の力に目覚める場面は感動的です。 

「『ひょっとしたら人の世の地獄を終わらせるのは言葉なのかもしれないね。どんな猛者でも打ち倒せるのは十人程度だ。でも言葉は発すれば相手のこころの奥深く沈み込み、何万人もの戦意を挫くこともできる』。ぼくは雷に打たれたように動けなかった。ぼくは、今の言葉を聞くために導かれてきたのかもしれない」全4部作。「ゲバラ漂流」「フィデル誕生」まで出ています。

関連記事

フォトニュース

  1. ぜひ皆さんで食べてください

戦争体験者に聞く 終わらざる夏

  1. 根室空襲、艦載機が猛爆 大東亜戦争末期、制海権を失った日本は北海道まで米軍に押し込まれ、1945年…
  2. B29へ決死の体当たり 欧州で第2次世界大戦が始まったのを受け、米軍は1939年(昭和14)11月…
  3. 3月17日の神戸大空襲に遭遇 アニメ映画化された野坂昭如の小説「火垂るの墓」、手塚治虫の「アド…
  4. 大阪空襲の直前に帰郷 印南町山口に生まれ、現在は美浜町吉原(新浜)に住む芝﨑シヅヱさん。父五郎右衛…
  5. 乳飲み子抱え上海から引き揚げ 御坊市島に暮らす98歳の嘉美(よしみ)さんは、1921年(大正1…

日高地方などのイベント情報

現在予定されているイベントはありません。

Twitter

書籍レビュー

  1.  「悪人」「怒り」等、多くの作品が映画化されている吉田修一。最新の映画化作品は藤原竜也、竹内涼真ら出…
  2.  週刊少年ジャンプに連載中の漫画「Dr.STONE(ドクターストーン)」を紹介します。  …
  3.  短歌をやっている母の本棚に20年ほど前からあった著者のサイン入り歌集ですが、今回初めて中身を読みま…
  4.  「バイバイ、ブラックバード」を読むと、原典に当たる太宰治の「グッド・バイ」が読みたくなったので、文…
  5.  作者の生まれは明治18年。明治45年に執筆され、初版は大正10年とかなり古いですが、繊細な描写が特…
ページ上部へ戻る