極北ラプソディ 2009(海堂尊著 講談社文庫)

 海堂尊による一連の医療エンターテイメントのうち、ドラマで話題となった「ブラックぺアン1988」に始まる「バブル三部作」、その続編「極北シリーズ」が加筆修正され、装丁も新たに講談社文庫から出ました。

 物語 ついに財政が破綻してしまった北海道・極北市。巨額の赤字を抱える市民病院を立て直すため、各地の病院立て直しで実績のある世良正志が鳴り物入りで院長に就任した。しかし大幅なリストラが行われた市民病院では、医師は外科医の今中とたった2人、看護師も2人。救急医療を行える体制にないと、世良は急患を一切受け付けず、隣接の雪見市にある極北救命センターに委託する方針を打ち出す。
 だが、診療費を支払ったことのない患者、田所の訴えを緊急の症状にないとみて退けたところ帰途で死亡。マスコミは「診療拒否で患者が死んだ」とこぞって騒ぎたて、世良はワイドショーの格好の餌食となる。

 そんな中、今中は世良の指示で極北救命センターに出向。副センター長としてセンターに君臨する医師は、かつて東城大で「ジェネラル・ルージュ(赤い将軍)」と呼ばれた速水だ。今中はドクターヘリを備えるセンターで、緊急医療の最前線を身をもって体験する。

 北海道の過酷な自然条件の中、患者の命か、危険なフライトに臨む医師と看護師、そして操縦士の命か、選ばざるを得ない状況に遭遇。吹雪のスキー場で、センター長の桃倉らが雪崩に巻き込まれ、桃倉は胸にストックが刺さったまま意識不明となっている。しかし現場は爆弾低気圧に覆われ、ドクターヘリが無事に降りられる見通しが立たない。速水は敢然とフライトを命じ、今中とともに自らヘリに乗り込むが…。

 一言でいって、まさに「医療エンターテイメント」。個性的なキャラクターが繰り広げる劇的な人間ドラマを、現役の医師ならではの臨場感あふれる描写が盛り上げる。

 その中に、現代医療の切実な課題を盛り込んで読ませる手腕はすごい。本書では、緊急医療の現場がテーマとなります。特に印象に残ったのは、ドクターヘリの操縦に当たるパイロット大月のプロ意識。そのパイロットの命を守るため、がんとして速水にフライトを許さないCSの越川。それに対し、「将軍様」ならではの独自の鋭い勘と気迫で不可能を可能にしようとする速水。現場におけるプロとプロとのぶつかり合いは読みごたえがありました。本書単独でも楽しめますが、物語の構造を完全に把握して味わうならやはり時系列順に5冊読むべきでしょう。さらに言えば、著者の作品世界はすべてつながっているので、この際いっそデビュー作の「バチスタ」から全部読むべきかと思案しているところです。

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