盤上に散る 塩田武士著 講談社文庫

 NHKでドラマ化された塩田武士のデビュー作、以前本欄でも紹介した「盤上のアルファ」の続編が文庫化されました。

 物語 結婚し、離婚し、旅行雑誌のライターなどしながら気がつくと40歳目前の蒼井明日香。一緒に暮らしていた母が他界し、形見の品を整理していると、投函しなかったらしい1通の手紙が出てきた。宛名は「林鋭生(えいせい)様」。一緒に大事そうにしまっていた新聞記事から、将棋指しらしいということはわかった。伝手をたどって、彼が「新世界の昇り龍」の異名を持つ伝説の真剣師であったことを知る。「真剣」とは、非公式に大きなものを賭けて行われる将棋の対局で、かつて大阪・新世界で彼が繰り広げた「真剣」の勝負は語り草になっていた。

 この男を探し出して母の手紙を渡したいと、明日香はさらに伝手をたどり、神戸新報の秋葉という若い記者が彼の最近の動向を知るかもしれないという情報をつかんで神戸へ。秋葉記者を通じて、アマチュアから編入試験を合格してプロとなった稀有な存在・真田信繁ら癖のある将棋界の連中を知り、真剣師林鋭生の伝説的な勝負についてきくが、行方は杳として知れない。

 なぜか、やはり林鋭生を探している30歳のリーゼント男とコンビを組み、旅行誌ライターとしての聞き込み術を駆使して鋭生の行方に迫っていく。

 そして鋭生が近々、30年ぶりに一世一代の大勝負をかける、との情報にたどり着く…。

 寡黙で角刈りにサングラス、青い細身のスーツと、40代以上には懐かしい「西部警察」の大門そっくりの林鋭生。著者のデビュー作でもある前作で、すでに「林鋭生の話はまた別の機会に」と本書の執筆が予告されており、ぜひ読みたいと思っていました。

 裏社会を勝負一筋に生きてきた男の一代記、タイトルもタイトルだし、悲壮な物語が重厚な筆致で書かれているのだろうと思ったのですが、いい意味で予想を裏切られます。

 行動的で小気味よい関西弁の明日香を主人公にすることで話はポンポンとテンポよく進み、時折カメラが鋭生側に切り替わって回想シーンを繰り広げることで、昭和の男の味わい深い生き様をじっくり見せ、物語に深みが与えられています。 

 将棋の息詰まる勝負の描写は前作よりかなり少ないのですが、鋭生と真田の不思議な絆は今作でも健在。書きぶりは前作よりも洗練されて読みやすい。

 まだ30代と若い著者ですが、昭和の男を魅力的にしっかり描ききることができるのは、尊敬できる上の世代の人が身近にいたのだろうなと感じさせられ、文庫版収録の石橋蓮司との特別対談でその意を強くしました。前作と合わせて、お勧めです。

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