歪んだ恨みの晴らし方

 11年前、子どものころに飼っていた犬を野良犬として連れ去られ、殺処分されたことの仇討ちだとして、46歳の男が元厚生事務次官ら2人を刺殺、1人に重傷を負わせる事件があった。記憶からすっかり抜け落ちていたが、最近読んだ本で思い出した。

 男の愛犬が連れ去られたのは1974年。その本によると、当時は狂犬病の発生、蔓延を予防するため、全国的に「犬捕り」と呼ばれるおじさんが地域を巡回しており、男は12歳だった。犬を散歩中の妹が綱を放した瞬間に捕まり、連れていかれたという。

 男は父親と一緒に犬を連れ戻しに保健所へ行ったが、すでに犬は別の施設へ移され、殺処分された。以来、男は復讐の炎を燃やし続け、34年後に犬捕りの元締めの厚生官僚トップ(実際は違う)への仇討ちを実行した。

 最近も、子どものころに教師から受けた体罰の恨みを、何十年もたって暴力で晴らす事件が中国であった。中学校を出て20年後、道で見つけた教師を呼び止め、「俺のことを覚えているか!」と顔を殴り、通行人がその一部始終を撮影、動画を拡散したことで検挙された。

 多くの人は、子どものころに理不尽な痛みを受けたとしても、何十年もたてば忘れてしまう。しかし、この2人はその怒りを忘れることなく持ち続け、とくに官僚を刺殺した男は犯行の脈絡のなさが常軌を逸しており、理解できない。

 明石の市長の暴言騒動も、元をただせば職員の怠慢に対する正当な怒りであり、そのエネルギーが強すぎる暴言は許されないとはいえ、1年半以上も前にこっそり録音された音声がなぜ選挙前のいまになって出てきたのか。

 これも一種の復讐とも思えるが、怒りの矛先、やり口が歪んでいてすっきりしない。(静)

関連記事

フォトニュース

  1. は~い!

写真集

戦争体験者に聞く 終わらざる夏

  1. 乳飲み子抱え上海から引き揚げ 御坊市島に暮らす98歳の嘉美(よしみ)さんは、1921年(大正1…
  2. 34年前、活字にならなかった一冊の本 活字の本として出版されることのなかった、一冊の戦争体験集…
  3. 船団護衛の海防艦で南方へ 1923年(大正12)8月19日、夏目英一さん(95)は日高郡旧野口…
  4. 千人針と250人分の寄せ書き発見 「あれ、これは何やろ」 1999年(平成11)8月、母の薫(か…
  5. 飛行兵志願も母が反対 小瀬輔造さん(89)は1930年(昭和5)1月7日、日高川町…

日高地方などのイベント情報

  1. 日高町第3回納涼夏祭り

    8月 25 @ 3:00 PM

Twitter

書籍レビュー

  1.  「バイバイ、ブラックバード」を読むと、原典に当たる太宰治の「グッド・バイ」が読みたくなったので、文…
  2.  作者の生まれは明治18年。明治45年に執筆され、初版は大正10年とかなり古いですが、繊細な描写が特…
  3.  6月19日は桜桃忌。芥川龍之介の河童忌、司馬遼太郎の菜の花忌ほど有名ではありませんが、太宰治の命日…
  4.  銀行に7年間勤務した経験を持ち、「半沢直樹」「陸王」「ルーズヴェルト・ゲーム」など人気ドラマの原作…
  5.  幅が狭く、カーブが続き、前から車がくればすれ違うこともできず、一つ間違えば谷底に転落してしまう…。…
ページ上部へ戻る