
御坊市指定文化財に3件が追加され、市指定文化財は19件となった。市の文化財指定は1998年の日高別院以来21年ぶり、美術工芸品としては1987年以来32年ぶり5件目。木造十一面観音菩薩立像は道成寺彫刻群を除けば日高平野で最古級の彫像、木造菩薩形坐像も日高地方の中で非常に古い像の一つ。伊藤博文の書「御坊黌」は一昨年に直筆だと分かり、いずれも価値の高い貴重な工芸品となっている。
木造十一面観音菩薩立像は高さ112・7㌢。四角ばった輪郭の頭部、腰を絞った体、一部に渦文風の衣文線を配する点に平安時代中期も早い頃の10世紀彫刻の名残が示されるが、肉身部の抑揚が控えめで衣文線も浅く刻むなど次代に続く新様も表れている。このような造形から11世紀初頭の平安時代中期の製作と推定され、日高地方では道成寺の彫刻群に次ぐ古さ。県中部地方の平安時代中期から後期の標準的作例としての重要性とともに、道成寺文化圏の造像環境をとらえる上で貴重な情報を有していると評価されている。
木造菩薩形坐像は鳳生寺の本尊で、高さ60・6㌢。体の穏やかな抑揚は平安時代後期の特徴を示す。目尻の切れ上がった生気のある顔つきは次の鎌倉時代のものに近く、12世紀後半の平安時代末期の像とされ、木造では日高地方の中でもかなり古い像の一つとなっている。これら2点を所有する鳳生寺は、中世に日高地域一体を支配した湯川氏の菩提寺で、古い歴史を持っている。
「御坊黌」(ごぼうこう)と書かれた書額は長年、御坊小学校の校長室に掲げられ、「伊藤博文題」の文字も記されている。これまで本物かどうかは不明だったが、一昨年、専門業者に鑑定を依頼。書の筆致や他の作品との書風の比較、生地である絹本の調査などから、伊藤の中年期に書かれた作品であると断定、真筆であることが判明した。御坊とゆかりのある会津藩士山川浩と懇意だったことから、山川からの依頼で伊藤が揮毫したとの見方もある。文化財としての価値は非常に高く、市教委では「御坊にとって貴重なもの」としている。
写真=木造十一面観音菩薩立像㊤、木造菩薩形坐像㊥、伊藤博文の書「御坊黌」