カッコウの卵は誰のもの

東野圭吾著 光文社文庫 648円(税別)

当代一の人気作家、東野圭吾のウィンタースポーツを描いた作品の一つをご紹介します。

物語 往年のトップアルペンスキーヤー緋田宏昌のもとを、ポーツ科学研究所の柚木と名乗る男が訪ねてきた。「トップアスリートの遺伝子を分析すると、『Fパターン』という組み合わせの遺伝子を持った選手は素晴らしい成果を上げる傾向がある。最近、緋田風美(かざみ)選手がFパターンの遺伝子の持ち主であると分かった」という。

風美は緋田が、若くして死んだ妻の忘れ形見として大切に育ててきた一人娘。彼女は父をしのぐスキーヤーに成長し、21歳の今はアルペンスキーの世界で大きな期待を背負うホープとなっている。

柚木は、父である緋田の遺伝子もぜひ調べさせてほしいと頼むが、緋田は「スポーツの才能は努力の結果だ。遺伝など関係ない」と怒りをあらわに拒絶。しかしその怒りには人にいえない理由があった。実は彼と風美の間に、血縁関係はまったくないのだ…。

「才能」をテーマに書き始めたが、書いていくに連れて「家族への思い」がテーマに変わっていったそうです。そういう大きく真摯なテーマを核に据えながら必要以上の重さは持たせず、読者の興味を先へ導いていく軽妙な文体、自然な会話はやっぱりさすが。人物の動作やちょっとしたセリフにも、その人物ならその場面ではそうするだろうという説得力を持たせているからこそ、展開される世界の中にすっと入っていける。ミステリーなので詳しくは書けませんが、遺伝子のつながりを超え、「家族」として子どもを守る決意が描かれる部分は自然な感動を呼びます。

ただ、雑誌連載で時間的・分量的な制限があったためか、終盤の文章が簡潔すぎ、淡々と終わってしまったのが残念でした。(里)

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