貫一お宮の像が暴力を助長?

 ご親切というか丁寧な但し書きや注意書きの多い昨今。「加熱後は熱くなっておりますのでご注意下さい」など、それはそうだろうと思うしかないような表示を目にすることもある
 愛読しているギャグ漫画に、主人公が新作青春映画を見に行く話があった。授業をサボり煙草をふかす高校生。画面の下に「俳優は成人しています。喫煙を助長するものではありません」と字幕で注意書きが出る。「部活はどうした」ととがめる教員が登場すると「登校を強制するものではありません」、吸殻を川に捨てる場面では「小道具であり水質への影響はありません。あとで回収しました」、「彼女欲しーな」「女なんて面倒なだけだ」の会話に「女性蔑視や差別の意図はありません」…字幕が多すぎて話に集中できない。主人公達は「こんな世の中誰が望んだんだろうね」「想像力のないヒマな人間ですよきっと」と嘆く
 全国紙で知ったが、熱海にある「金色夜叉」の一場面を再現した銅像に但し書きのプレートが付いた。貫一がお宮を足蹴にする有名な場面で、「文学作品の一場面であり、暴力を助長する意図はありません」と英語・日本語で記されている。まさに漫画を地でいく現実。一体どこの誰が、暴力を助長する目的で銅像を建てるなどと思うのだろうか
 何らかの表現で傷つく人がいるのなら実態に即して誠実に対応すべきで、予め中庸的表現を心掛ける態度も場合により必要かもしれない。だが名作文学でそんな事態が起こることは、実際には稀であろう
 本質を離れた部分で、問題が起きる可能性をいちいち先回りして考えるような縮こまった心は、豊かな芸術を楽しむ境地からは程遠い。そんな硬直した心が万一にも世の主流になってはと、それが心配だ。(里)

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