数字には表れない五輪の価値

 先日の市民教養講座で講師を務めた元水泳選手の岩崎恭子さんは今月38歳になるという。競泳最年少の金メダリストとなったバルセロナ五輪は24年前、14歳の時。「私が2回オリンピックに出たこと知ってる方います? みんな知らないんですよね」と屈託のない笑顔で言い、2つの五輪経験を語った
 1度目のバルセロナでは、決勝前に金メダル候補のアメリカ・ノール選手に「グッドラック」と言われてすごくうれしかったこと、自分の心臓の鼓動がドキッドキッと響くのを聞きながら飛び込んだこと、不思議なくらい気持ちよく泳げて水をかくたびスイスイ進むのを実感したこと。臨場感あふれる話しぶりで、彼女にとってどれほど大きな出来事かわかる。金メダルが決まり「今まで生きてきた中で一番幸せ」と喜びを述べたが、素直なその言葉は思わぬ混乱を彼女にもたらした
 「名言」が一人歩きして見知らぬ人々にペースを狂わされ、下を向いて歩くようになった。「下を向いてても見られると気づくまで2年かかりました」という。2年経ったその時、次の五輪が視野に入った。バルセロナ後は水泳への意欲もなく成績も振るわなかったが「あれがどんな場所だったか、もう一度自分の目できちんと見てこなければ」と強く思った。目標ができると着実に上昇。日本選手権で優勝し、五輪出場権を勝ち取った。結果的に10位だったが、「アトランタの10位は非常に大きなこと」と力を込めて言った。バルセロナの金は天性の素質と成長期の力、アトランタの10位は強い意志と努力の結果である
 五輪がもたらす喜びも苦しみも経験し、いま指導と子育てに打ち込む岩崎さん。その笑顔は爽やかで温かく、24年前の無邪気な笑顔に負けないくらい魅力的だった。(里)

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