患者に届かなければ意味がない

 他人のiPS細胞(人工多能性幹細胞)で目の難病、加齢黄斑変性を治療する世界初の臨床研究が来年前半にも始まることになった。自分の細胞から作ったiPS細胞を使った治療は成果が出ており、今後始まる臨床試験でいい結果が得られれば、いまよりはるかに時間もコストも削減できる。
 京大の山中伸弥教授が人のiPS細胞の作製に成功してから9年。いまやiPSは再生医療の主役となり、日本は国策として1000億円以上を投じて研究を支え、人への臨床応用の開始目標時期を設定した研究ロードマップも公表している。
 加齢黄斑変性の治験は昨年から始まり、経過は順調、今回の他人の細胞由来のiPSによる治験開始に目途が立った。続いてパーキンソン病、来年度には心不全を治療する心筋の臨床研究が計画されている。
 他方、がん治療の分野では、湯浅町出身、京都府立医科大大学院の酒井敏行教授らが開発した抗がん剤が国内新薬承認を受け、今月1日から販売された。皮膚がんの悪性黒色腫(メラノーマ)を適応症とした治療薬で、米国では末期患者が劇的に回復、がんが消滅したケースも報告されている。
 今後、日本人に多い肺や大腸など他の部位のがんにも効く薬として改良されることが期待されており、副作用が少なく、治療効果が高く、応用も幅広い。素人考えながら、iPSに匹敵する研究成果であるといいたい。
 山中教授も酒井教授も若くして、肉親を病気で亡くした。「病気の人を救いたい」。その一念で研究者は日々、奮闘している。効果のある薬が開発されても、患者に届かなければ何の意味もない。酒井教授の新薬は、国内承認が海外より3年も遅れた。ようやく始まった医療行政改革、さらに加速を。 (静)

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