渡りチョウに生命の神秘
- 2014/10/10
- 日高春秋
渡りチョウとして知られるアサギマダラ。先日、写真愛好家の中西次郎さん(御坊市)が「ZAO」とマーキングされたアサギマダラを日高町志賀で捕獲、放蝶。およそ650㌔を40日余りかけて旅してきたらしい
筆者が初めてこのチョウを間近に見たのは昨年、日高町原谷でだった。キイジョウロウホトトギスの取材をさせて頂いたお宅の庭にフジバカマが咲いており、ちょうどアサギマダラが食事に来ていた。近づいても逃げず、きれいな羽の模様をじっくり見ることができた
アゲハチョウ類のように小刻みにはばたくのではなく、ふわりふわりと飛ぶ。人を恐れない。実に観察しやすいチョウといえるかもしれない。日本の国蝶は1957年、日本国蝶学会によってオオムラサキに決まったが、ギフチョウ等と共にアサギマダラも候補になっていたそうだ
中西さんがこのチョウに関心を持ったのは18年前。西山山頂で群れがみられるときいて出かけると、実際、車の後ろを乱舞しながら飛んでくるほどだったという。以後、南紀生物同好会代表の乾風登さんと共に観察を続けている
この小さなチョウがそんなに広い世界を見てきたのかと思うと、生命の神秘的な働きを感じる。昆虫や植物の営みを、花鳥風月を観賞するように漫然と眺めるのではなく、何かを読み取るようにじっくり見つめる視点がなければ多くの生命のドラマは解明されない。西洋人は虫の声や波の音などは右脳で処理するが、日本人はそれに意味を見いだすように左脳で処理するという
日本人ノーベル賞受賞者第1号、湯川秀樹博士の自伝「旅人」を読み、豊かな詩情がたたえられていることに感動した。科学とロマン、両方の視点から自然を見ることで人は前へ進んでいけるのだろう。(里)