作品化が記憶の風化に歯止め

 本紙3面の連載小説、熊谷達也氏の「潮の音、空の色、海の詩(うた)」。熊谷氏は仙台出身・在住で、今月11日で発生後3年となる東日本大震災を正面から捉えて書いている。
 主人公・聡太は故郷の宮城県仙河海市(気仙沼市がモデル)を離れ、県都仙台の予備校に勤務する青年。物語はまさに地震発生の瞬間から始まる。勤務先やマンションも被害を受けるが、それより津波にのみ込まれる故郷をテレビで目の当たりにして衝撃を受ける聡太。
 作中では緊急事態下での街の空気、生活の詳細が描写され、その場の様子が目に浮かぶ。聡太は現代の若者らしく冷静に行動するが、現地入りした人の詳細なリポートをパソコンで読みながら、涙で画面がぼやけて見えなくなるという場面がある。なぜこんなに泣いてるんだ、と自分に問いかけながら、聡太は涙を流し続ける。印象的な場面であった。
 3年という時間が経過しても、まだまだ傷は過去のものとはなっていない。むしろ深い部分でのダメージの大きさ、深刻さが次第に明らかになっている。だが当事者以外の人には、どうしても日常の意識からそのことは離れがちになる。記憶の風化が問題となっている。
 今月25日、県民文化会館で県・県文化振興財団主催の「追憶と祈りの集い」が開かれ、日高地方の劇団RAKUYUが協力して写真と朗読の構成劇「忘れない」が上演される。東日本大震災・紀伊半島大水害から3年、「稲むらの火」で知られる安政南海地震から160年が経つのを記念しての催しだ。
 「稲むらの火」は、村の長老とされた濱口梧陵が実は当時30代の商人だったなど史実と異なる点はあるが、人の心に感銘を与えることで物語として長く語り継がれてきた。そこに、作品化の大きな意義がある。  (里)

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