身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ

 先日開かれた第2回市民教養講座の講師は、毎日放送のバラエティー番組「ちちんぷいぷい」などでおなじみの元アナウンサー、⻆淳一さん。演題は「大人の駄菓子屋~身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ~」だが、冒頭でご本人はそれを見上げ、「こんな題で、一体何をしゃべるんでしょうねえ」と人ごとのように言った。
 「えっと、次は何の話しましょうかね…」一段落すると、のどかな口調でそんなことを言いながら考え込む。うらやましいような自然体である。思いつくまま気の向くままに、面白いエピソードを次々に披露。取りとめないようでいて、結果的には半生が時間を追って語られた。
 父は⻆さんが生まれる前に戦死。伯父の家で育ち、「人気者になるために」とラジオアナウンサーの物真似をマスター。好評だったので本気でアナウンサーを目指した。深夜テレビ「夜はクネクネ」では、台本なしで毎回面白い番組を成立させるストレスから円形脱毛症や胃潰瘍に悩まされた。だが視聴者には愛され、民放祭で関東代表の「笑っていいとも」を抑えて日本一のバラエティー番組に選ばれたという。そして阪神大震災、脳梗塞、心筋梗塞。大変な経験を語りながらも口調は穏やか。最後は話をまとめるでもなく、好きな落語など紹介しながら終わった。
 講演では触れられなかったが、実は全体の話が「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」を表していたのではとあとで思った。身を捨ててというと大げさだが、私心なく誠実に物事に取り組む姿勢を表している。だからこそ危機も無事に切り抜け、「浮かぶ瀬」を見いだした。
 言葉より、気負いのない自然な姿勢そのものが、実は深い内容を持っていたのかもしれない。  (里)

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