味覚の文学で暑気払い

 梅雨明けと同時に本格的な夏が到来。連日の暑さに体調を崩す人も多いようだが、筆者も突発的に胃の調子が悪くなり、腹痛と本稿を抱えて困っている。暑気払い代わりに、文学作品の中から暑さをしのぐ昔ながらの食物をピックアップして味わってみたい。
 古くは平安時代、清少納言の「枕草子」。あてなるもの、つまり上品なものとして「水晶の数珠」「藤の花」と並んで「削り氷にあまづら入れて、新しき金まりに入れたる」が挙げられる。かき氷に「甘葛」のシロップをかけて新しい金属製の椀に入れたもの。1000年も昔の日本の夏も、氷菓子で涼をとってしのぎたくなる蒸し暑さだったのだろう。かき氷ではもう1点、山口誓子の「匙なめて童楽しも夏氷」。国語の授業で習った俳句の中では最も印象的な句であった。
 長年、夏の暑さから日本人を救ってきた食材の代表はなんといってもスイカ。西東三鬼に「西瓜切るや家に水気と色あふれ」と、夏の家庭の楽しげな様子を詠んだ句がある。80歳の母は、この季節は毎日少量でもスイカを食べないと調子が悪いという。豊富な水分と糖分だけでなくカリウムを多く含み、利尿効果もあるので、夏バテを防ぐにはもってこいの食べ物だ。正岡子規は「切売の西瓜くふなり市の月」、高浜虚子は「うり西瓜うなづきあひて冷えにけり」と、明治の俳人も暑さの中で無心に冷たい味覚を楽しむ様子を詠んでいる。
 「暑気払い」とは、体にたまった熱気を取り除くこと。何か打ち込めるものがあれば熱気もそちらに向かうようで、夏の厳しい暑さをしのぐ言葉の芸術を探しては一心に書き写しているうち、どうやら体調も落ち着いてきたようだ。     (里)

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