「忘れたころ」はあたりまえ~

 天災は忘れたころにやってくる。自然災害はその被害の恐ろしさを忘れたころに再びやってくる。だから、日ごろの備えを忘れてはいけないということわざ。「喉元過ぎれば熱さ忘れる」という言葉もある。人間はつらく、苦しいことも、それを乗り越えれば簡単に忘れてしまう。どちらも、人の不用心やお気楽さを戒める意味で使われることが多い。
 この怖さや苦しみを「忘れる」という現象は、社会生活を営む人間が生きるための脳内情報処理の基本。だれしも、いつわが身に降りかかるかもしれない事故や病気に四六時中、怯えていては健康な生活ができない。50年後かも、あすかもしれない巨大地震に対する備えは必要とはいえ、毎日その確認を繰り返し、ひねもす頭で考えていては仕事も手につかず、いずれ自ら病気を引き寄せてしまう。
 ある心理学者の話。企業やチームの個々のメンバーに、「組織のなかの自分の力」を自己採点させると、ほとんどの人から「平均以上」との過大な評価が返ってくるという。客観的にそんなことはありえないのだが、これも一種の自己防衛、健全な精神を保つための脳内情報処理であり、無意識に「(自分の能力が)そんなわけはない」と意識が働く。逆に、周囲より劣る自分の能力を正しく認識してしまうというのは、現実を悲観し、不安が抑えられないうつ状態の表れともいえるそうだ。
 内閣府が新たな南海トラフ巨大地震の被害想定を発表し、和歌山県も新たに2種類の津波浸水予測を公表した。「正しく恐れて備える」とは、聞こえはよくないが、現実の情報を無意識に都合よく操作して受け入れ、自分をだますことから始まる。     (静)

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