20年ぶりに読んだ村上春樹

 出版不況といわれる現代にあって、わずか7日間で100万部という驚異的な売り上げを記録した村上春樹著「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(文藝春秋)。売り出しのカウントダウンの模様がニュースで流れるなど、もはや社会現象となっていた◆しかし、氏のエッセイのどこかで「10万部単位の頃には作品が多くの人に理解されているのを感じていたが、100万部単位になってからはより多くの無理解や悪意が感じられるようになった」と読んだ覚えがあり、今回のお祭り騒ぎのような売られ方には違和感を覚えた。理解できない多くの人に読まれ、的外れの批判を受けてもいいんだろうか、と◆筆者にとっては一時期熱中し、その後離れた作家。土の匂いのしない都会的な作風、だが内容は軽くはない。誠実な描写、世界を見つめる目の深さと厳しさがよかった。しかし「ノルウェイの森」や「ダンス・ダンス・ダンス」が好きになれず、以後エッセイだけを読むようになり今に至る◆ニュースに乗せられたわけではないが、およそ20年ぶりに最新作を買って読んだ。昔はなかった時代へのまっすぐなメッセージのようなものを感じ、その書きぶりに、無理解な人を恐れる気持ちなどとうの昔に超越したのだろうと思った。無理解な人が50万人いても、もっと売って100万人の理解者と出会う可能性に賭けると決めたのかもしれない。その本を必要とする誰かの手に間違いなく届くように◆それにしても、演出次第でそれだけ売れるという事実には感心する。出版業界だけでなくいろんな場で参考にできないものだろうか。その品がきちんと実質的な価値を持つことが条件になるが。     (里)

関連記事

フォトニュース

  1. 思いやりの心を持ちましょう

写真集

戦争体験者に聞く 終わらざる夏

  1. 乳飲み子抱え上海から引き揚げ 御坊市島に暮らす98歳の嘉美(よしみ)さんは、1921年(大正1…
  2. 34年前、活字にならなかった一冊の本 活字の本として出版されることのなかった、一冊の戦争体験集…
  3. 船団護衛の海防艦で南方へ 1923年(大正12)8月19日、夏目英一さん(95)は日高郡旧野口…
  4. 千人針と250人分の寄せ書き発見 「あれ、これは何やろ」 1999年(平成11)8月、母の薫(か…
  5. 飛行兵志願も母が反対 小瀬輔造さん(89)は1930年(昭和5)1月7日、日高川町…

日高地方などのイベント情報

現在予定されているイベントはありません。

Twitter

書籍レビュー

  1.  「バイバイ、ブラックバード」を読むと、原典に当たる太宰治の「グッド・バイ」が読みたくなったので、文…
  2.  作者の生まれは明治18年。明治45年に執筆され、初版は大正10年とかなり古いですが、繊細な描写が特…
  3.  6月19日は桜桃忌。芥川龍之介の河童忌、司馬遼太郎の菜の花忌ほど有名ではありませんが、太宰治の命日…
  4.  銀行に7年間勤務した経験を持ち、「半沢直樹」「陸王」「ルーズヴェルト・ゲーム」など人気ドラマの原作…
  5.  幅が狭く、カーブが続き、前から車がくればすれ違うこともできず、一つ間違えば谷底に転落してしまう…。…
ページ上部へ戻る