父を忘れるほどの活躍を

 歌舞伎の十八代目中村勘三郎が亡くなり、長男の勘九郎の涙の口上が印象的だった。弟の七之助と並んで客席に頭を下げ、言葉を詰まらせながらもしっかりと、最後は「父のことを忘れないでください」と語りかけた。
 古典芸能や落語の世界では、六代目中村勘九郎、六代目桂文枝という具合に、偉大な名前が代々受け継がれる。亡くなった中村勘三郎も、3歳で五代目中村勘九郎を襲名し、勘三郎を継ぐまで46年もの間、「勘九郎」として人気を博してきた。歌舞伎ファンでなければ、今回の死去の報も名前だけではピンとこない人が多かったのでは。
 名跡制度も、本人にとっては名誉なことであるに違いないが、実際、自分もファンも慣れ親しんだ芸名が変わるというのは、大きな人生の転機となる。上方落語でいえば、つい先日、六代目桂文枝を襲名した桂三枝は、世間的にはいまも「三枝」であるし、だれが見ても「文枝」となるにはまだまだ時間がかかる。桂べかこ改めの桂南光も、襲名から19年が過ぎながら、いまだ「べかちゃん」のイメージが抜けきらない。
 同じ上方落語では、笑福亭松鶴の「六代目」の跡継ぎが落ち着かない。一門から筆頭弟子の仁鶴、鶴瓶らが後継者として名前が挙がりながら、いずれも「おそれおおい」として固辞したとか。プロ野球選手の背番号とは違い、テレビ時代に生きる人気商売の芸人にとって、名前が変わるということは、名誉や重圧だけではないリスクも大きい。
 人気者の父を亡くした六代目中村勘九郎には、いずれは世間のだれにも「勘九郎」といえば自分の顔が浮かぶよう、歌舞伎ファンが「父のことを忘れる」ほどの活躍を期待したい。   (静)

関連記事

フォトニュース

  1. ありがとうございます

戦争体験者に聞く 終わらざる夏

  1. 乳飲み子抱え上海から引き揚げ 御坊市島に暮らす98歳の嘉美(よしみ)さんは、1921年(大正1…
  2. 34年前、活字にならなかった一冊の本 活字の本として出版されることのなかった、一冊の戦争体験集…
  3. 船団護衛の海防艦で南方へ 1923年(大正12)8月19日、夏目英一さん(95)は日高郡旧野口…
  4. 千人針と250人分の寄せ書き発見 「あれ、これは何やろ」 1999年(平成11)8月、母の薫(か…
  5. 飛行兵志願も母が反対 小瀬輔造さん(89)は1930年(昭和5)1月7日、日高川町…

日高地方などのイベント情報

現在予定されているイベントはありません。

Twitter

書籍レビュー

  1.  「悪人」「怒り」等、多くの作品が映画化されている吉田修一。最新の映画化作品は藤原竜也、竹内涼真ら出…
  2.  週刊少年ジャンプに連載中の漫画「Dr.STONE(ドクターストーン)」を紹介します。  …
  3.  短歌をやっている母の本棚に20年ほど前からあった著者のサイン入り歌集ですが、今回初めて中身を読みま…
  4.  「バイバイ、ブラックバード」を読むと、原典に当たる太宰治の「グッド・バイ」が読みたくなったので、文…
  5.  作者の生まれは明治18年。明治45年に執筆され、初版は大正10年とかなり古いですが、繊細な描写が特…
ページ上部へ戻る