いまなお真相は闇の中

 「Aさんを殺したという事実も、人間の世界でみれば単なる殺人だが、ヴァジラヤーナの教えが背景にあるなら、それは立派なポアである」。世界初の化学テロ事件を起こしたオウム真理教の麻原の教え。先日放送されたNHKの特番「未解決事件」は秀逸だった。
 麻原は世の中の善と悪を自らが決め、自分たちと合わない日本の政治や警察、社会を悪と決め、その人たちがこれ以上、カルマ(悪業)を積まないためにポア(殺害)してあげることが救済=善行だという。側近への説教の録音テープを聞いた大学教授は、「いろんなことを適当にいってるが、基本は荒唐無稽。論理がかなり倒錯している」とあきれ笑いだった。宗教法人が無差別テロ? まさか…の思いがぬぐいきれず、警察も捜査の手が緩んだ。
 人間の欲望にブレーキをかけ、理想郷の実現を目指す宗教。その信仰は一歩間違うと狂信となり、いまなお戦火が絶えないが、オウムの麻原は70㌧(70億人の致死量)ものサリン製造を目標とし、「救済」の名のもとに国家を転覆させ、新たな宗教的国家を武力で実現しようとしていた。信者は不信を募らせながらも、自分がポアされることを恐れ、命じられるままテロに加担していった。
 逮捕された菊地直子容疑者もそんな信者の1人だったのだろう。宗教も企業も、組織(トップ)の暴走を止めるのは、その妄信を疑問に感じ、声を上げる信者、社員の正義なのだが、結局は何もいえず、逃亡を繰り返した。たどり着いたボロボロのあばら家が悲しかったが、そんなことはどうでもいい。いまも癒えることのない悲しみ、苦しみが続く被害者、遺族、犯した罪に向き合い、事件の真相、教団の真実を語らねばならない。 (静)

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