あの日忘れじ 鎮魂の風車

 福島県南相馬市の西山さんから、手作りの風車が届いた。東日本大震災後、7月末まで約4カ月間、美浜町の知人宅で避難生活をされていたとき、取材をさせていただいたのが縁。南相馬では民芸品の会社を経営、自身が描く地域伝統の馬の絵「駒絵」も玄人はだしで、8月には記事がきっかけとなり、みなべ町埴田にある井口食品の直売店で大震災チャリティーの西山さんの駒絵展も開かれた。
 地震、津波、さらに原発の放射能汚染が広がり、何重もの苦難から砂をつかんで立ち上がろうとしている福島の被災者。あの日から10カ月になろうとするいまなお、「道行く人たちの表情は暗く、なかば下を向いて歩いているのが普通で、はずむような声はどこからも聞こえてこない」という。5月にお話をうかがった際、「目の前に普通の日常があること。これがなによりの安心なんです」と話されていたのを覚えている。
 平穏で快適な日常が当たり前の時代。多くの人は不幸にも地震や水害で被害を受け、病気やけがで命の危険を感じて初めて、静かな日常の幸せ、健康のありがたさを知る。ある意味、幸せは不幸に直面しなければ実感できず、平穏も長く続けばありがたみを忘れる。それは生きるうえで不可欠な防衛機能ではあるが、痛みや苦しみのない退屈な日常こそが最大の幸せであるということを忘れてはいけない。
 紅白歌合戦では、長渕剛が石巻の小学校の校庭から、熱いバラードをうたって感動を呼んだ。忘れてはいけないと思いながら、どうしても薄れゆく悲しみ(幸せ)を呼びさましたあの歌と同じように、西山さんの風車が「カタカタカタ…」と小さな音をたて、風になった人たちの声を届けてくれる。  (静)

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