受け継がれる物語

 ニュースで、岩手県陸前高田市の一本松の映像を見た。7万本の中でたった1本津波から生き残った奇跡の松だ。根が塩水に浸かり蘇生は無理と診断されたが、24日に鎮魂と再生への希望を込めてライトアップされた。雪の中で、松は受け継ぐべき記憶を象徴するように輝いていた◆「受け継ぐ」ということでは、文芸界のあるニュースに驚かされた。児童文学作家佐藤さとるの「コロボックル物語」を女性作家の有川浩が引き継ぐという。昭和34年から62年まで書かれた名著で、親子2代のファンも多い。筆者には小2の頃に父に買ってもらって以来の愛読書だ。83歳の著者から39歳の作家に作品が引き継がれるというニュースには、感慨深いものがあった。人から人へ心を伝えるのが言葉や文章だが、それは時として時代を超えていく◆15年前に他界した父には高価なおもちゃなど買ってもらった記憶はあまりないが、本はよく与えられた。課題図書の類ではなく落語全集や「日本のこわい話」など買ってくれ、読むことの面白さは十分刷り込まれた。やがて書くことも好きになり、言葉を扱う仕事に就いてなんとかやっている◆天災が相次いだことしも多くのニュースが書かれ、読まれた。かかわる人の心、出来事の意味を的確に伝えるため、よりふさわしい言葉を考える。その感覚を磨くためにもっともっと読まねばならない。読む力が少しでもあるのなら、それが父から受けた財産だと思っている◆1年の終わりは整理すべきものを整理し、抱えていくべきものをしっかりと抱え直して、新しい時間の中へと歩む時だ。多くの人にとって特別な年となった2011年は、あともう少しで終わる。  (里)

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