日本人古来の心とは

 先日、お茶の水大学教授で数学者、藤原正彦氏の市民教養講座を取材した。ベストセラーとなった6年前の著書「国家の品格」(新潮新書)は発行後すぐに読み、感銘を受けたので「若き数学者のアメリカ」「遥かなるケンブリッジ」など他の著書も読み進んでいた◆氏の主張を端的に述べると、「日本人が古来持っていた惻隠(そくいん)の心を取り戻し世界の規範となるよう示すことが、祖国のみならず世界を救う」。惻隠とは弱者を思いやる心で、講演では「弱者への涙」と表現されていた◆惻隠の情を含む武士道。金銭よりも精神的な価値を尊ぶ気高い心。豊かな自然への畏怖から生まれた鋭敏な感受性。そんな心が、日本の多彩できめ細やかな文化を育んできた。自然と調和し、他の存在との調和を図るのが日本人の心である。地球環境の悪化や経済の混乱に一層拍車がかかることが懸念されるこれからの時代、日本が真に国際貢献できるとすれば、まさにそういった心の領域においてではないかという気がする◆藤原氏は講演でも著書でも「日本の学問で圧倒的に優れているのは文学である」と述べていたが、現在、文学と美術の両分野が融合したような日本特有の文化、漫画やアニメが世界の多くの国々で紹介され、高い評価を得ている。その意義を日本人自身がもっと強く認識し、そこにある高い精神性を自覚すべきと思う◆藤原氏の著書をずっと読んでいて、「大和魂」という言葉について新たな思いを抱くようになった。戦時中は戦意高揚に用いられたが、本来そのような意図で謳われた言葉ではないはずだ。その根底にあるものはきっと、「大いなる和(やわ)らぎの心」ではないか。   (里)

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