郷土の礎となった先人達

 紀南ゆかりの文人57人の生涯と業績を紹介する「熊野をめぐる文人たち」(熊野歴史懇話会著)が、田辺市の㈲あおい書店から発行された。本紙に「弓庵つれづれ書画話」連載の書家、弓場龍溪さん(日高町小中)が13人分を執筆。肖像画は57人分すべてを担当されている◆弓場さんの連載当初から、関心深く拝読していた。日本に種痘を普及させた小山肆成(しせい)、南方熊楠の師で「軍艦マーチ」を作詞した鳥山啓らの遺業紹介は読みごたえがあり、どの人物についてもこの稿では書ききれないほどの感想が湧く。そのほかにも、江戸時代に高価な白砂糖を浴槽に投入し、仰向けにつかることを楽しみにしていた豪商。新聞報道写真第1号を撮影した写真家。明治時代、日本にサッカーを普及させた教育家と、多彩な人物像が収められる◆人一人の生涯の背景には自ずと時代の息吹がある。紀南のみならず我が国全体の当時の空気が、さりげない記述の中に投影されている。1人につき4ページ、いわばダイジェスト版の生涯だが、わずか数行で書かれた出来事の裏にどんなドラマがあったかと想像力をかき立てられる。郷土史への関心を育てる出発点となる書かもしれない◆幾多の業績を遺し郷土の礎となった先人たちは、紀の国の自然豊かな風土という水に洗われ、研がれ、育まれた、キラリと光る貴石のような存在である。ネットで検索すれば大抵の情報は拾い出せる現代だが、一冊の書物で彼等の事績を広く知らしめることは、情報の大海原から海底の貴石を選びとってすくい上げ、光を当てることに似ている。中紀・紀北地方の偉人達についてもこのような書があれば、と望まれる。
       (里)

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