人生の中で最も深くて重い時

 京都の東本願寺に勤めながら全国各地でライブ活動を展開している 「シンガーソンガー僧侶」 の鈴木君代さんのコンサートが、 みなべ町で開かれた。 きれいな歌声で童謡や唱歌を歌い上げ、 曲の合間のトークでは命の尊さについて訴えた。 他界した自身の祖父についても語り、 「大好きだったおじいちゃんが亡くなる時、 『死なないで』 と叫んだら、 おじいちゃんの止まっていた心臓が再び動き出し、 『人の命は誰にもどうすることもできない時がくる』 と最後の言葉を残して息を引き取った」 と思い出を振り返りながら語った。
 人がこの世を去ると、 また別の世界が待っているのかもしれない。 「非科学的な考えだ」 と言われるかもしれないが、 生死をさまよった臨死体験者の話には 「光や花が見えた」 「大勢の人が歩いていて、 手招きして呼ばれた」 などと共通性を感じる面があるからだ。 もしそうだとすれば、 人の最期はいわば、 世界が移り変わる過渡期で、 新しい世界の扉を開こうとする時に乗り越えなければならない苦しみや悲しみがあるのではないかとも思える。 それが自然の摂理とするならば、 延命治療はいたずらに苦しみをとどめているに過ぎないのではなかろうか。
 先日、 父が亡くなった。 筆者が父の手をしっかりと握ったのは何年ぶりのことだろう。 その手は力なく、 小さくゆっくりと震えていた。 最後の呼吸が途絶えた時、 横にいた看護師が 「いま息を引き取りました」 と独り言のように小さな声で静かにつぶやくのが聞こえた。 他界する直前の、 人生の中で最も深くて重い貴重な時を父のそばにいられたことが幸せに思う。   (雄)

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