シリーズ 「うつ病」 ⑥ 杉村さんの場合その5

10-8.jpg 約2年の休養を経て回復、職場に復帰した杉村三郎さん(37)=仮名=は、通院・服薬を続けながら1年間は無事に乗り切ったが、部署が変わり新しい仕事がストレスとなって再び休職。しかし、今回は杉村さんのよき理解者の菜穂子さん(32)=仮名=がそばにいて、精神面の強い支えとなってくれたため、症状は重くなる前に回復、4カ月で仕事に戻ることができた。病気や離婚、子どもとの別れ…杉村さんの厳しい現実と過去を菜穂子さんは丸ごと受け止め、2人はともに人生を歩んでいくことを決心した。
 知り合ったのは、いまから3年ほど前、長期休職で実家に戻り、昼夜が逆転した生活からようやく立ち直りの兆しをみせはじめたころ。親友の中山さん=仮名=の誘いで山のログハウスへ遊びに行くようになり、少しずつ外出ができるようになってきたとき、中山さんが何度か食事会に誘ってくれた。初めて出会ったとき、杉村さんは中山さんと、菜穂子さんは職場の友達を連れてきていた。「よう笑う子やなぁ」。人当たりがよく、周囲まで楽しい気分にさせる菜穂子さんに、杉村さんはひかれた。
 ■この子ならわかってもらえる 菜穂子さんも杉村さんに好意を持ち、やがて2人で連絡を取り合うようになったが、自分の病気のことを隠していた杉村さんは、なかなか本当のことを話せない。「話を聞いたら引いてしまって、もう会えなくなるかも…」。そのためらう気持ちを察したのか、意外にも菜穂子さんの方が自身のつらい過去を話してくれた。このとき、杉村さんは 「この子なら病気のことを話してもわかってもらえる」と思った。
 ■すべてを正直に告白 「言おうか言わまいか、でも言わないと前には進まない。ある意味、賭けでした」。何日かたって、車の中で話をした。自分には離婚の経験があり、子どもに会えなくなったことが原因でうつ病になり、いまも精神科に通院しながら薬を飲んでいる。菜穂子さんは泣いていた。言葉には出さなかったが、「え、そうなん?…」と驚いた様子。そのときは杉村さんが話をしただけで終わった。後日、菜穂子さんから「一緒に頑張っていこうね」という反応があった。
 ■過去を吹っ切り前へ 病気が完全に癒えていない杉村さんは、1人でいるとどうしても消極的、考え方も後ろを向いてしまうが、菜穂子さんは逆にいつも前向き。仕事でも家でも笑顔が絶えず、自分よりも人のためにという気持ちの強い女性で、うつ病についてもよく知ろうと、医学書や参考書を読んでくれた。そんな菜穂子さんに支えられ、杉村さんは彼女や周囲の人のためにも前を向いて生きなければという思いが強くなり、自分の中で引きずっていた過去を吹っ切った。
 ■彼女の両親もはじめは反対 「病気を持ってて、いつまた体調崩すかわからんけど、ついてきてくれるか」。杉村さんのプロポーズに対し、 菜穂子さんは「はい」と答えたものの、両親はやはり「やめといた方がええんちゃうか」という反応。バツイチ、しかもうつ病の男というのは、娘を嫁にやる相手としては限りなくマイナス。杉村さんにも、「反対されても仕方がない」という覚悟はあった。菜穂子さんの気持ちは揺らぐことはなく、杉村さんからもじっくり話を聞いたうえで、菜穂子さんの母が「あんたがこの人と決めたんやったら、応援するよ」といってくれた。
 ■楽しいことだけ考えて ことし6月に入籍した2人は、先月、晴れて結婚式を挙げた。杉村さんは新しい家族ができたことも「いい意味で気楽に。2人でいこかって感じ」。以前に比べて思い詰めることがなくなった。再発の不安もたしかにあるが、「彼女の明るさにごまかされるというか、楽しいことだけ考えるようにしています」。健やかなるときも、病めるときも、愛し守る人を得てつかんだ幸せは、離婚や病気のつらい過去があっての必然。杉村さんは確実に完治に近づいている。

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