シリーズ 「うつ病」 ⑤ 杉村さんの場合その4

10-1.jpg 離婚をきっかけにうつ病を発症した杉村三郎さん(37)=仮名=は、家族や友人、職場の仲間に支えられながら、約2年に及ぶ休職・休養で少しずつ力を取り戻した。おととし1月からは通常勤務に復帰。1年以上が過ぎたとき、再び休職することになったが、今度はそばに強力なサポーターがいた。友人の紹介で知り合った5つ年下の女性。 焦らず一歩ずつ前へ進もうと、病気と向き合い、理解してくれる彼女はかけがえのない存在となった。
 暗い部屋の中で一日中布団にもぐりこみ、人と会うことを避け、食事ものどを通らず、一時は「この世から消えてしまいたい」と、包丁を胸に押し当てるまで心身の苦痛がピークに達した杉村さん。その後、実家に戻り、母親のもとで休養、医師を信じて薬を飲み続け、親友の中山さん=仮名=や尊敬する職場の先輩の支えもあって、1年以上が過ぎて少しずつ元気を取り戻した。とくに中山さんに連れて行ったもらった山の中のログハウスは気分がよく、泊まりがけで行くたびに「また来たい」と思うようになり、やがて自分から友達を誘って食事に出かけたりできるようになった。
 ■十分すぎるほど体を休めて 治療開始から2年近くがたち、自分では完全に回復、「そろそろ仕事を」と思うようになったが、医師には「まだまだ十分すぎるほど体を休めるぐらいがちょうどいい」とブレーキをかけられた。一日も早く仕事に戻りたい、今回の病気を機に生活と人生を建て直したい…そんな思いでさらにしばらくの休養をとったうえ、19年12月から2週間、職場復帰に向けて午前中だけ簡単な仕事の「ならし」勤務をさせてもらった。年が明けて21年1月中旬からは元の通常勤務に戻り、4月には和歌山市の職場へ異動となった。
 ■職場復帰し1年乗り切る 事情を知る上司の紹介で、市街地から少し外れた静かな山の近くのアパートで1人暮らしをすることになった。慣れない環境で新しい仕事も増え、夜遅くまで残業することもあったが、山の緑や鳥の声に心が癒された。「とにかく1年間は頑張ろう」、そう心に決めてスタートした新生活。全国的な児童虐待事件のニュースを見ては、別れた子どもを思い出し、仕事の疲れも重なって2日続けて休んだこともあったが、なんとか1年間は乗り切ることができた。
 ■新たな仕事の重圧から再発 ことし4月、仕事の内容が大きく変わった。24時間、携帯電話で呼び出しがあればすぐに現場へ駆けつける「待機」勤務がプレッシャーとなった。3人ずつの2チームが交代しながらの対応、自分が休むとチームだけでなく、他の業務にも迷惑がかかる。「当番になると、呼び出しがなくても気持ちが休まらないんです」。やがて眠りが浅くなり、夜明け前に目が覚め、睡眠が十分とれなくなり、食欲も落ちてきた。残業をしないようにして、帰っても家事は後回し、布団に入る時間を早めたりしたが、症状は改善せず、6月から1カ月、また1カ月と、様子をみながら4カ月ほど休職した。
 ■支えてくれる女性がいた 「また元に戻りつつある…」。今度は自分の調子の変化がうつ病によるものだと分かっていた。悪化の原因は以前のような離婚や子どものことではなく、新しいハードな仕事に自分が耐えられるかという不安が大きかった。休んでいる間、実家にはたまに帰ったが、基本的にはアパートで療養。母親にかわって、食事や洗濯を手伝ってくれる菜穂子さん(32)=仮名=がいた。はじめの長期休職中、少しずつ元気を取り戻したころ、中山さんが菜穂子さんと菜穂子さんの友達を誘って、4人で食事に行ったのが初めての出会いだった。
 
 ■病気や過去のことも正直に 互いにひかれ合い、やがて2人で会うようになったが、いつまでも病気のことや自分の過去を黙っているわけにはいかない。ある夜、菜穂子さんを家まで送って行った車の中で、「じつは…」と切り出した。離婚、子どもをめぐるいざこざ、それが原因でうつ病になったこと、いまは通院しながら薬を飲んでいること…。すべて包み隠さず話した。「当時、ボクは病気のことを隠してましたし、そのショックと、子どもに会えないことへの同情があったんだと思います」。黙って聞いている菜穂子さんの目から涙があふれた。長く感じた沈黙のあと、彼女は涙をふいて、「一緒に頑張っていこうね…」といってくれた。
 ■暗い影を吹きとばしてくれる笑顔 美容師という仕事柄か、いつも陽気で前向き、自分と正反対に見える性格の菜穂子さんは、うつ病に関する本や参考書を読み、症状の特徴や患者への接し方などを理解しようと努めた。ミスやトラブルを引きずり、考え込む杉村さんを見ると、「くよくよ考えてもしゃあないやん」「明日は明日の風が吹くし」。明るく笑いとばして、杉村さんの頭にかかる暗い影を振り払ってくれた。

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