シリーズ「田舎暮らし」⑨ 印南町のマンガ家 さいわいさん

2010-709-1.jpg 田舎でもパソコンと高速通信回線さえあれば、 東京や大阪と同じ仕事ができるIT時代。 芸能界では二地域居住の俳優や歌手が多く、 定住型でも作家のC・W・ニコルさんや倉本聰さんなど、 田舎で暮らしながら執筆活動をしている人が多くいます。 今回は大阪から印南町美里地区へ移住し、 静かな自然の中で都会とのつながりを維持しながら、 作品を発表し続けているマンガ家、 さいわい徹さん (60) にお話をうかがいました。 
 
 「ここはわずか10軒しかない小さな集落なんですが、皆さん親切な方ばかりで、引っ越してきた初日からお世話になっています。田舎の風習や地域の人たちとのかかわり、自然や動物との関係を通して、都会では体験できない数々のカルチャーショックがありました」というさいわいさん。 大阪市出身のマンガ家で、いまから約11年前、和歌山市に近い阪南市から印南町美里へ夫婦で移り住んできました。すぐそばを切目川の清流が通り、鳥の鳴き声しか聞こえない静かな環境はまさに 「田舎」、趣味の釣りも楽しめるセカンドライフの地として思い描いていた理想の地。思い切って大阪の家を売りに出しました。しかし、売り値は予想以上に下がり、なんとか土地は買えたものの、家を建てるお金がないため、2×4工法に詳しい友人に相談しながら、安いアメリカの木材を直接輸入し、プロの大工さんに建物を建ててもらったあと、内装、外構は 「住みながら自分たちでコツコツ仕上げた」 そうです。
2010709-2.jpg 美里に来て受けたカルチャーショック。その1つはお葬式で、地域で亡くなった人がいれば、お葬式は自分の家でやります。家の中に祭壇を組んだり、通夜、 告別式の準備と片づけ、仏様を埋葬地まで見送る野辺(のべ)の送りまで、隣組のみんなが手伝います。さらにこの地域は町内でも珍しい土葬の風習が残っているところで、遺体を埋葬する墓穴を掘る作業も手伝ったそうです。「満点の星空、川に乱舞するホタル、タヌキやサルの動物、海釣り、野菜作りなどはどれも田舎暮らしのすばらしさですが、私にはそれ以上に、地元の人たちとの交流がすばらしい」。田舎で新たな人との交流を求める人、都会の喧騒から逃れ静かにひっそり暮らしたい人。Iターンの目的は2種類あるといわれますが、さいわいさんは 「それでいうと、私は完全に前者ですね。年1回の川そうじ、道路を補修したりの普請など、決して強制ではない地域の奉仕活動も田舎ならではの経験です。そんな暮らしの中で少しずつ、人と自然の共生、森が抱える問題とは何か。そんなふうなことを考えるようになり、必然的にマンガ家としての作品にも影響を受けています」といいます。美里での田舎暮らしの中で生まれたのが 『森の中の海で』。動物と会話ができる少年優(ゆう)と兄の健(けん)、都会から引っ越してきた少女愛(あい)の3人が森の中で自然の大切を学んでいく物語です。
 
 また、さいわいさんは昨年、県内で初めてのプロの人形劇団 「人形劇場 クアパパ」 を旗揚げしました。 30歳でマンガ家になる前は大阪で人形劇団 「クラルテ」 に在籍。 人形を操りながらセリフをしゃべる役者をしていた経験があり、 メンバーは同じくクラルテなどで活動していた妻のまさ江さん (60)、 平尾信江さん (大阪在住) の3人。 クアパパとはハワイの言葉で 「みんなで楽しく」 という意味。 「人形劇を通じて子どもたちの明るい笑い声を広げていきたい」 と、 幼稚園や保育所、 図書館、 子供会などをおもな発表の場としていて、 今月7日にはみなべ町の幼稚園に招かれ、 手作りの人形で楽しい物語を披露しました。 この人形劇も、 命や自然の大切さ、 思いやり、 優しさの心を失わないでほしいというマンガの作品にも通じる思いが込められています。
 いまも仕事でよく大阪まで出かけますが、交通手段は車と電車。御坊駅まで車で行き、大阪まで特急に乗ると、自宅からの所要時間は約2時間。「仕事で大阪へ行くときも、逆に大阪から友達が遊びに来てくれるときも、この2時間というのがギリギリのライン。これ以上になると、大阪とは完全につながりが切れた生活になってしまうでしょうね」。やはりこの日高地方は京阪神から近すぎず、遠すぎず、豊かな自然の中で都会との関係を保てる田舎暮らしに最適の地。マンガ家のさいわいさんにとって、「仕事はファクスとインターネットがあればどこでもできる」という発想が田舎暮らしの出発点でしたが、印南町はつい最近まで光ファイバーの通信環境が整わず、「出版社との原稿のやりとりなど、 通信速度の極端に遅い電話回線。このストレスはなかなかのものでした」。締め切りに追われるマンガ家という職業、その時間との闘いの中の通信速度の遅さは致命的ともいえますが、「こっちに来て不便に感じたのはそれだけですね」 といいます。
 

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