シリーズ 「ネット社会」 ⑨ 2ちゃんねる 

2010319-2.jpg いまから10年前に起きた西鉄バスジャック事件で、17歳の少年が「ネオむぎ茶」というハンドルネームでインターネット掲示板「2ちゃんねる」に犯行を予告していた。この事件により、2ちゃんねるの知名度は一気に高まり、その後も多くの事件の犯人や自殺者の書き込みが報道されるようになった。匿名による誹謗中傷、名誉棄損がしばしば問題視され、イメージは決してよくない2ちゃんねるだが、なかには小説や映画にもなる感動的な書き込みも少なくない。
 2ちゃんねるは、1999年5月にオープンした電子掲示板の集合体。閲覧だけのユーザーも含めると利用者は1000万人とも1200万人ともいわれている。その中身は、ビジネス、政治、スポーツ、芸能など幅広い分野の話題が提供されており、これらの話題はいくつもの「板(いた)」というジャンルに分かれ、さらに板ごとに数十個から数百個の「スレッド」「スレ」という書き込みのテーマが存在。各スレッドでは意見を書き込むことができ、名前を入力しないで投稿すると、基本的に「名無しさん」という仮の名前がつけられる。このスレッドに書き込むことを「レス」「レスポンス」という。
2010319-1.jpg 匿名による投稿が可能という特性から、 問題となっているのがプライバシーの暴露。ストーカーが女性の名前や住所とともに中傷するような内容を書き込んだり、一般の人が人権侵害被害を受けるケースのほか、少年犯罪の容疑者の実名公開などが議論となっている。6年前の長崎県佐世保市の女児同級生殺害事件では、事件が起きる前に無関係の女児の名前が多数掲示板に書き込まれ、名前を書かれた児童らが自殺願望を抱くほどに精神的なダメージを受けたという。また、西鉄バスジャック事件のように、社会への不満を他人への暴力という形で晴らす行為をネット掲示板に予告のうえ、実際に犯行に及んだ凶悪事件もあり、「○月○日○時に○○を殺します」「これから死にます」などと犯行や自殺を予告する書き込みをした人が逮捕・保護されるケースもあとを絶たない。
 しかし、個人のプライバシーがふみにじられ、犯罪を誘発するとも指摘されるなど、悪いイメージが強い2ちゃんねるだが、なかには楽しく、感動的な書き込みも少なくない。有名なものでは小説がベストセラーとなり、ドラマや映画にもなった純愛ストーリーの『電車男』がある。これは「独身男」という板の中に、自身の恋愛挑戦を報告しあうスレがあり、そこにアキバ系オタクの男性が書き込んだ「電車の中で酔っ払いに絡まれた女性を助けてお礼をいわれた」というレスが発端だった。ほか、2ちゃんねる発の映画化ストーリーでは、雑談系のニュース速報VIP板で2007年11月から12月にかけて書き込まれた『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』という話もある。「デスマーチ」と呼ばれる劣悪な労働環境の企業(ブラック会社)で働く元ニートの主人公が成長、自分の生き方を見つけていくドラマ。昨年、小池徹平主演で全国公開された。
 同じニュース速報VIP板の話では、「消去できないメールが来ました」という感動話も反響を呼んだ。太陽の光を浴びることができないXP (色素性乾皮症)という病気の19歳の男性の初恋。スレ仲間に「鬱陶しい話かもしれないけど、聞いてください」と呼びかけ、とつとつと語られる実話はあまりに悲しく、せつなく、人を愛することの難しさや怖さとともに、愛する人のために行動することの大切さ、生きることのすばらしさが詰まっている。この感動の話は特選スレが保存・公開されている「ハムスター速報 2ろぐ」の2007年下半期名スレ100選(3位)、月別アーカイブ(2007年8月)で読むことができる。匿名で掲示板に書き込みをする他人同士が1つの話で瞬間的につながり、涙を流しながら励まし合う、温かい愛情に満ちた世界が存在する。

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