情緒を育てる本の力

 スマホに慣れた最近の赤ちゃんは絵本の絵を指先でスライドし、動かないので泣くという話をきいたことがある。電子書籍も少しずつ普及し、昔ながらの紙の本は生き残れるのかと本好きが危惧を覚えるような昨今の状況だが、御坊市立図書館のブックリサイクルを取材してその盛況ぶりに意を強くした◆今回は、雑誌のバックナンバー、古くなった児童書や一般書など2700冊が無償提供。開場1時間前から整理券が配られ、開場と同時に130人ほどの参加者が入場。狩人のように真剣なまなざしで「獲物」を物色していた。子どもたちも楽しそうに絵本などを眺め、大判の世界地図帳などを重そうに両腕の上に積み上げた頼もしい男の子もいた。自分も96番の整理券を手に上限の10冊まで選び、ずっしりした重みと満足感を味わった◆電子書籍と紙の本、同じ内容の小説を読んだとしても、その読書体験が人に及ぼす影響は違うものになるのだろうか。パソコンの画面上で読む物語は、単独で「情報」として頭に入ってくるような気がするが、本は中身以外にいろんなものが付属している。まず手触り、重み。カバーの絵や装丁。ページを繰った時の紙の匂い。読み聞かせてもらうのなら、読んでくれた人の声音や表情、その時の天気や気候などの記憶もついてくる。頭ではなく体を使って五感で触れた本の記憶は、知性以前に大切な情緒を育ててくれるような気がする。本の中身を理解するための根源的な力は、本当はそういうところから伸びていくのではないか◆その力があれば、読む本の内容は頭の中で自然と映像化される。精巧で生き生きとしたその映像はいくらでも自由に動く。指先のちっぽけな平面ではなく、胸の中で無限に広がる空間で。 (里)

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