吾輩の手紙、勝手に見たらいかんぜよ

 和歌山市の旧家で、夏目漱石が松山の教師時代の同僚に宛てた手紙が見つかった。この家の86歳の男性の祖父が漱石の同僚で、熊本への転勤が決まった漱石に別れのあいさつをするため、学校の寮を訪ねたが、漱石はあいにく留守。男性の祖父は手紙と惜別の和歌を宿直員に預け、それに対する返信が今回見つかった手紙。末尾に未発表の俳句も添えられている。
 少し前には、坂本龍馬が土佐藩の重臣後藤象二郎に宛てた手紙の下書きが、東京の民家で発見された。薩長同盟、大政奉還を成し遂げたあと、慶応3年11月15日、近江屋で暗殺される直前に書いた最後の手紙とみられ、大量にある筆まめ男の手紙類でも最高の価値がつくという。
 龍馬の手紙は147年前、漱石の手紙は118年前のもの。どちらも通信は手紙が主流、いまのインターネット社会の私たちとはまるで感覚も違うが、2人ともまさか、のちの世で自分の手紙が大きなニュースになっているとは。あの世で「おまんら、勝手になんちゅうことを」とさぞご立腹か。
 3年前、御坊市の民家に保管されている、大日本帝国海軍連合艦隊司令長官山本五十六の小遣い帳を取材した。戦時中、山本元帥の家族が塩屋町に疎開し、元帥が戦死後、御坊を離れる際に出されたごみの中にあったのを、その家の人が思い出に頂戴したもの。震える手でページをめくると、毎月の給料や食費、ワイシャツの仕立代、なじみの料亭への支払い、戦死した部下の遺族への弔慰金などが細かな字でびっしりと書かれていた。
 龍馬のおちゃめさ、漱石の律義さ、軍神五十六の意外な几帳面さが面白く、第三者の目にふれるとは思いもよらぬ優しい言葉や内容に、歴史に名を残す人間が表れている。     (静)

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