屈辱を乗り越え真の王者に

 先の世界ミニマム級王座統一戦、WBC王者の井岡一翔とWBA王者の八重樫東の試合は、互いにダウンを奪えぬまま12ラウンドが終了。判定で井岡が勝った。最終ラウンドは死力を尽くして打ち合い、抱き合って健闘をたたえ合う両王者。スポーツとしてのボクシングに興奮、久しぶりの好ゲームだった。
 ボクシングはストイックな個人競技として浪花節が似合う。大阪、関西系の選手の中にはプロになる前の「やんちゃ」を売りに、試合前から相手を挑発、会見で「メンチ」を切る選手もいるが、これがいかにボクシングのイメージを落としてきたか。そういう意味でも、今回の井岡の礼儀正しさ、王者としての言動のさわやかさは際立ち、ボクシングの好感度アップにつながると感じた。
 世界戦はメーンの試合の前に無名の選手同士の試合が何本か組まれるが、テレビ中継の関係で、前座の試合が延びた場合、世界戦のあとに無名選手の試合が回されることもある。観客はタイトルマッチが終わるとほぼ全員が席を立ち、ゴングが鳴ってもまるで潮が引くように帰ってしまう。そんなプロのボクサーとして屈辱の状況の中で、選手は悔しさを拳に込め、世界戦以上の激しいファイトを見せるという。
 だれも見向きもしないリング、だれも見向きもしない舞台、だれも見向きもしない商品にこそ、選手、演者、つくり手の誇りと情熱、高い技術が隠されている。目立たぬ日陰に目を向け、踏みつけられながらも歯を食いしばって頑張る新人、後輩に耳を傾けられる人間でありたい。井岡―八重樫戦を見て、いつかラジオで聞いたいい話を思い出した。
       (静)

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