想像以上に息の詰まる映画である。貧困から生きるために別れるしかなかった家族...命がけの脱北の現実を描いた話題作『クロッシング』。10日夜、県民文化会館で県内初の上映会があった。正直、これほど悲しく、熱く、頭をつかんで揺すられるような衝撃を受けたの初めてだった。
北朝鮮について、ニュースで理解しているつもりでも、それらは所詮、うわっつらにすぎない。将軍様の後継者を予想したり、外国を非難するニュースの女性アナウンサーの映像をこすって笑っているだけ。しかし、この映画はつくりものとはいえ、100人を超える脱北者に取材、助監督など30人もの脱北者がスタッフとして参加し、地方の寒村にまでしみわたった監視社会の恐怖、強制収容所の現実を徹底的に追求。日々のニュースよりはるかに真実に近い。ストーリーはとくにない。度外れた誇張もないだろう。国家や軍を批判するセリフはまったくなく、ただ、「生きたい」「会いたい」と願う家族が映し出される。
映画化のきっかけは8年前、北京のスペイン大使館に駆け込んだ集団亡命事件。飢えて死ぬのを待つよりも、イチかバチかで川を渡る。命よりも大切な家族のために、「時間がない」から。はからずも韓国に渡った主人公が北朝鮮に残してきた妻と息子を思い、「神は豊かな国にしかいないのか」「なぜ神は北朝鮮を差別するのか」と崩れ落ちる。この言葉を世界に突き付けるため、極秘裏に4年の歳月をかけて完成した。
「家族」とは? 北朝鮮の救いのない現実に目をそむけず、多くの日本人に見てほしいすばらしい映画。13日午後1時からと7時からの2回、田辺市の紀南文化会館でも上映される。(静)