「セーフ」。代打の背番号12の左打者が一塁ベースを駆け抜けた瞬間、カメラ越しに目頭が熱くなった。三塁への適時内野安打。熱い思いが詰まった一打だった。
紀三井寺球場で連日熱戦が繰り広げられている夏の高校野球和歌山大会。本紙では大会を前に日高地方のチーム紹介を行ったが、その中の「ラストサマー」は6年前から始まったコーナー。ある選手にスポットを当てる企画で、これまで兄のリベンジに燃える投手や甲子園出場経験を持つ父の背中を追う4番打者、縁の下の力持ちの控え選手など紹介してきた。取材を通して最後の夏にかける思い、それぞれが歩んできた軌跡を知っているだけに彼らへの思い入れは強く、活躍を願わずにはいられない。冒頭の打者もラストサマーで紹介した選手の1人。
彼はチームの代打の切り札。彼の母は、高校球児としての活躍を見ることなく昨年1月に他界した。小中学時代から試合のたびに応援に駆けつけ、グラウンドに響き渡るほど大きな声援を送ってくれたという。取材の際、彼は目に光るものを浮かべながら時おり声を詰まらせた。「辛かったら止めるが...」と問うと、「続けて下さい」ときっぱり。最後は力強く「グラウンドでは母の声は聞けなくなりましたが、心の中ではいつもあの大きな声が響いているんです。大事な場面で打っていい報告をしたい」と天国の母に甲子園出場という吉報を届けることを約束してくれた。
母に捧げる特別な一打。母の声援を聞きながら振り抜き、1塁ベース上では母の大喜びする声が胸に響いていたのだろう。チームはこの試合で負けてしまったため甲子園出場の吉報を届けられなかったが、彼なら人生の吉報は必ず届けられるはず。エールを送りたい。 (昌)